雪の足跡《Berry's cafe版》

 それとも優しく笑うのは、呆れてるからだろうか。


「何、笑ってるのよ!」
「別に」
「ま、まだ確定した訳じゃないし」
「じゃあ調べるか?」


 近くのショッピングモールに薬局があるからそこ行けば売ってるんだろ?、と八木橋は言った。


「何故そういうコト知ってるのよ? 経験がある訳??」


 八木橋は、アホ、と言って笑う。

 食事を終えてショッピングモールに向かう。八木橋は、俺が買ってくるから、と車を降りてひとりで中に入っていく。しばらくして戻ってきた八木橋は私にその紙袋を差し出した。

 ホテルの部屋に戻り、八木橋は顎でトイレを指す。仕方なく紙袋と共にトイレに入る。初めて手にする妊娠検査薬、外箱の注意書きを読んでから用を済ませた。八木橋にどんな顔をしていいのか分からなくて、そのままトイレに篭る。

 換気扇が回るだけの静かな空間。心臓がバクバクする。検査の結果が陽性ならきっと産むことになる。遅かれ早かれ、こうなることは分かっていた筈なのに浮足立つ。まだ早い、まだ怖い。何か私に最後の宣告をするように、無機質なその白いプラスチックの棒は染み込んだ色で淡々と秒を刻んでいる。自分から誘ったのに、万が一そうなってもいいと思った癖に実際に突き付けられて怖じけづいた。

< 212 / 412 >

この作品をシェア

pagetop