雪の足跡《Berry's cafe版》
迎えに来た母の車に乗り込む。バッグしか持っていなかった私を不思議そうに見た。
「ユキ、板はどうしたの?」
「八木橋さんが板のチューンナップしてくれるって預かってくれた」
「チューンナップって、今シーズンはもうスキーに行かないの?」
「あ、うん……」
八木橋は部屋から出ていく時に、スキー制作会社にチューンナップを頼みに行くから、と私の板を抱えて出て行った。きっと体を大事にしろ、という意味なんだと思う。転んだら母体に影響が出ないとは限らない。
「だ、だってあのスキー場は今月末でクローズだし、八木橋さんはゴールデンウイークは仕事だし一緒に滑りに行けないし」
母は、変ねえ、いつも一人で飛び出す娘が、と首を捻る。
「う、ウェアもクリーニングに出しちゃおうかな。母さん、クリーニング屋さんに寄って」
そう?、と母はハンドルを切った。クリーニング屋の駐車場に車が止まると私はバッグからウェアを引っ張り出した。勢いよく飛び出したそれと共に、さっき買ったばかりの本も一緒に出てしまった。しかも紙袋が破けて、タイトルが剥き出しになる。
「初めてでもまるわかり妊娠百科……?」
母が飛び出した本を手にした。
「ユキ?」
「あ、これは……よ、予習だからっ」
「予習?」
「暇潰しに買ったの!」
母は、ふうん、と横目で私を見た。