雪の足跡《Berry's cafe版》
「そういえば洗面台にナプキンの入った巾着、しばらく見てないわね」
「……」
「生理用ショーツも、母さん洗濯した記憶が無いわ、母さんボケたかしら??」
母は眉毛を上げてニヤリと笑う。私は顔が一気に熱くなり、ウェアを持って助手席を降りた。駆け込むようにクリーニング店の中に入り、店員にウェアを渡す。店員はウェア内側のタグを探してはレジに金額を打ち込む。私はその手持ち無沙汰の間、振り返って車内の母を見た。
ニコニコしながら本をめくる母。概ね笑みを浮かべて眺めている。一枚ページをめくって、うわあ、というような顔をしたり、ふうん、というような顔をしたり。嬉しそうだった。
店員に代金を告げられ、財布からお金を出す。下を向いた視界の中に自分のお腹が見えた。勿論まだ膨らんではいない。その中にいるであろう、新しい命。八木橋も喜んでるようだった。母も嬉しそうで。こんなふうに待ち望まれて生まれて来る命はきっと幸せなんだと思った。
店を出て車内に戻る。母はパタンと妊娠百科を閉じて私に手渡した。
「母さん、あの……」
「なあに?」
「笑わないで、あの、私……」
「笑わないわよ、馬鹿ね。病院は行ったの?」
「ううん、まだ……検査薬で調べただけで」
じゃあ早く行きなさいね、子宮外妊娠だったら大変だから、悪阻は始まってるの?、無理しちゃ駄目よ、と優しく話してくれた。頭痛で鎮痛剤飲んだけど、と聞くと、まだ母体から栄養を取ってる段階じゃないし市販の薬なら大抵大丈夫よ、とアドバイスしてくれた。