雪の足跡《Berry's cafe版》

「本当はユキさんの心の準備がきちんと出来てから、と思っていました。でもその前にここを離れることを許してください」


 八木橋は更に頭を下げた。私も合わせて頭を下げる。八木橋ひとりに責任を押し付けてるみたいで嫌だった。


「母さんごめんなさい」
「ユキまで……。お式はどうするの? 住まいは? 決めなきゃいけないこと沢山あるのよ。頭を上げて?」


 ほらほら、おめでたいことなんだから、八木橋さんとユキが決めたことならそれでいいのよ、と母が言い、八木橋は頭を上げる。私もそれに合わせて頭を上げた。


「八木橋さん、ユキ、おめでとう。幸せにならないと父さんが怒るわよ」


 私も八木橋も頷いた。そして母が夕飯の支度をする間、八木橋とこれからの話をした。住まいは宿舎にある家族用の部屋にするか麓のアパートにするか、式は安定期に入ってからでホテル併設の教会でいいか、それとも千葉か浦和でするか、八木橋の実家には悪阻が本格的になる前に行こう、と。どの話が具体的で、実感が湧く。本当にこの人と結婚するんだ、って。本当にこの人の赤ちゃんを産むんだ、って。


「ユキ?」


 私はまた、涙ぐんでいた。


「……産んでいいんだよね? 結婚していいんだよね?」


 まだそんなこと言ってんのかよアホ!、と八木橋は笑いながら私の頭を撫でる。

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