雪の足跡《Berry's cafe版》

 自宅に帰り、線香を上げる。まだ見ぬ我が子を、まだ点でしかない命を心配して可愛がって落ち着かない八木橋。亡くなった父も八木橋みたいに心待ちにしてたんだろうか。母が父も喜んでると言ったのはきっと、私がお腹にいるときにそうしていたらからだと思った。


「父さん……」


 そして私が生まれた。やっと出来た自分の子ども。雪山でペンションを経営する夢より、家族を選んだ。冷え症の母を思いやり、もっと子どもが欲しいと願って。順序を違えても怒る筈がない。

 母にも体調を心配される。少しお腹違和感を覚える。


「生理が来るみたいにお腹が重たいんだけど」
「妊娠初期にはよくあることよ」
「うん。まるわかり百科にも書いてあった」


 ちゃんと勉強してユキもすっかりお母さんね、と茶化された。ダイニングで買ってきたばかりの結婚情報誌を広げる。東京、埼玉は勿論、関東近県のリゾートウェディングも紹介されている。


「あ。ふうん」


 その中には八木橋のいるホテルも載っていた。広大な芝生の向こうに白いチャペルがあり、その奥に青い山々がそびえる。そのチャペルの他にフラワーファームで青空挙式も出来るようで、実際に式を挙げたカップルの写真が載っていた。モデルは八木橋ではなかったけど、重ねてしまう。白いドレスの新婦を見守る新郎。


「あら素敵ね。八木橋さんのところ?」
「うん。6月なら薔薇が咲いてるし、ラベンダーも少しは咲き始めるみたいよ」
「料理も美味しかったしね」

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