雪の足跡《Berry's cafe版》

「でも問題はないってお医者さんが言ったんでしょう?」
「……」


『避妊を辞めればすぐに妊娠すると思われてる方が大変多いのですが、そう簡単なものではありません。人間の受精卵は、受精の直後では40%が異常卵、それが子宮に移動する間に淘汰が起きて、着床時には25%に減ると言われている。染色体の異常は誰にでも起こる出来事です』


 医師の言葉を思い出す。ただでさえ大変な受精卵の着床、更に私は母の体質を遺伝してるかもしれない。そうなら、もしそうなら、母のように子を授かるのは難しい。


「でも遺伝するかも……。そしたら私、私……」


 八木橋に流産したなんて、どう報告していいか分からない。子どもが好きであんなに喜んでいて。がっかりするに決まってる。このまま流産を繰り返して、子どもが産めない体だと分かったら八木橋はどう思うだろう。私と結婚したら、自分の子を持つことが出来ないかもしれないって。

 小さな子どもに優しい声で優しい笑顔でスキーを教える八木橋。おませで憎たらしいけど、菜々子をちゃんと女の子として扱う八木橋。自分の子どもをいらないなんて思う筈がない。


「ユキ、まだ妊娠出来ないって決まった訳じゃないのよ」
「うん……」
「医学は日進月歩、あの頃より数段も良くなってる筈だから」
「うん……」


 母は娘をフォローしようといろいろ話をする。
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