雪の足跡《Berry's cafe版》
「……八木橋さんに電話してくる」
私はそう母に伝えて2階の部屋に入った。本当に電話しようと思ったんじゃない、母が慰めようと掛ける言葉が妊娠出来ない事実をひた隠しにしてるように聞こえて、耳を塞ぎたかった。
携帯を取り出し、八木橋の番号を表示させる。何を話せばいいかも分からないまま、通話ボタンを押した。
「どした? こんな時間に珍しいな」
変わらない八木橋の声。
「あ、うん……」
コユキ、元気か?、と尋ねられて言葉に詰まった。何から説明すればいいか言葉を探している間、無言になる。
「おい……?」
「コユキ……コユキは……りゅ……」
コユキは流産した、って言おうとして声が震えた。あの日、ちゃんとコユキは点で見えていた。ちゃんとお腹の中にいた。今頃本当は小さな袋になって、妊娠まるわかり百科にある達磨のような形になって、心臓の音だって聞こえたかもしれない。でも、今は、いない。
「ヤギ、ごめ……」
私は新しい命を守ってあげることが出来なかった。コユキを育ててあげられなかった。ポロポロと頬を液体が伝う。私は赤ちゃんを失ったんだ、とその事実に気付いた。