雪の足跡《Berry's cafe版》
「ユキ」
「ご……めん……ヤギ」
「謝るなよ」
「だって、私……コユキを、コユキを守ってあげられなかった……ご……」
八木橋が、謝るな、とだけ言うのが聞こえた。八木橋にきちんと説明しようとするけど、唇が震えて言葉にならない。
私は泣いた。声にならない声を上げて泣いた。携帯を握り締め、床にへたり込む。流産したとかこれからの未来とかそんなことが心配なんじゃなくて、ただ赤ちゃんを失ったことが悲しかった。
八木橋との間に生まれた命。予想外だったとは言え、愛する人との間に授かった命。妊娠に気付いてどうしていいか分からず躊躇して、母や八木橋に背中を押されて大きな不安は消えた。その途端に可愛く思えた赤ちゃん。
それを失った。大切に大切に育てると決めた癖になくしてしまった。その小さな命に申し訳なくて申し訳なくて涙が止まらない。声にならない声で何度も、ごめんね、と言おうとする。でも謝っても謝っても足りなくて、どうすることも出来なくて、私はひたすら泣いていた。終いにはわあわあと子供が泣くように泣いていた。
どの位そうしていただろう、握り締めていた携帯から充電の切れるアラーム音が聞こえた。慌てて充電用コードを探す。独り言のように、充電切れちゃう、切れちゃう!、と呟きながら差し込むと、クスクスと笑う声が聞こえた。私は八木橋と通話中だったことをすっかり忘れていた。
「アホ」
時計を見れば20分は泣き続けてた。