雪の足跡《Berry's cafe版》

 八木橋の胸に手をついて動く。本当に恥ずかしかった訳じゃない、この体勢で八木橋の顔が視界に入るのが怖かった。ゆっくりと揺れる度に八木橋の顔が少し歪む。時折焦らすように動きを止めると、八木橋は私の唇に手を伸ばす。


「なにが恥ずかしいだよ」
「や……」


 八木橋は指先で私の口コミをなぞる。そして両手で私をリードする。彼女にはもっと優しく声を掛けてたんじゃないかと疑う。

 八木橋はつながりながら後ろ手をついてゆっくりと起き上がり、対面座位になる。私にキスをし、そのまま止まった。


「どした?」
「ううん……やっ……」


 八木橋は私の背や腰に腕を回し、抱き抱えて軽々と私を押し倒す。八木橋と私の位置が逆転し、八木橋が再び上になる。


「ユキ……」


 用意周到に避妊具を持ち合わせてる。初めての時もそうだった。几帳面というか真面目というか、八木橋はキチンとしている。まるで誰かを妊娠させそうになった経験があるみたいに。まさか、彼女を……?

 なら、辻褄が合う。あの時妊娠したことに本人の私よりも先に気付いた、検査薬が市販されてることも知ってて躊躇することなく購入してきた、赤ちゃんが出来たと知って病院に行くタイミングを理解していたのも、スーツで現れたことも。みんな納得がいく。

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