雪の足跡《Berry's cafe版》
八木橋は何も変わらなかった。腕枕をして私の前髪を梳き、しばらくしてベッドを下りて布団を敷いた和室に行った。朝も変わらずご飯にかぶりつき、味噌汁を啜る。一緒にコーヒーを飲んでるうちに母が帰宅して、私は仕事に出た。
八木橋は私の言葉を全く聞いていない。宿舎に帰ってすぐに宿とシャトルバスの手配をしたとメールをよこす。今年は桜の開花が遅れそうだからユキが来る頃は3分咲きだろうけどそれも綺麗だぞ、飯はどうする?、作るなら食材買って冷蔵庫に入れとくぞ、と私の返事も聞かずに予定を立てている。
何かこう、急いでる感じがした。私の気が変わらないうちに挙式してしまおうとでも思ってるみたいに。母だってきっとあの見合い写真の男性と迷いたくなくて急いでる。結婚ってもっとじっくり考えるものだと思ってた私は、私だけが置いてきぼりを食らった気持ちが続いていた。勿論元カノのこともある。八木橋は携帯に彼女の画像をまだ残していたんだから。
そうこうしてゴールデンウイークになり、私は仕方なく八木橋の手配したシャトルバスに乗り込んだ。私の頭の中は八木橋が何故そんなに急ぐのか、そればかり考えている。山に嫁いでくれる女性はそういないんだろうか、でも八木橋くらいの人ならいくらでもいると思う。何もスキー客から探さなくても従業員とか地元の人とか。それとも別の事情だろうか。
「元カノ……?」
元カノを引きずる八木橋。早く結婚して忘れようとしているとか。