雪の足跡《Berry's cafe版》
シャトルバスはホテルに着き、ロビー前で降ろされる。ベルの中には酒井さんの姿も見えた。青山さん久しぶり!、と相変わらず人懐っこく声を掛けて私の荷物を持つとロビーまで運んでくれた。フロントでチェックインの手続きをし、キーをもらってコンドミニアム棟に向かう。
「今日は下見?」
歩きながら荷物を持つ酒井さんに話し掛けられた。
「下見?」
何惚けてるの?、と酒井さんは笑う。
「ほら、ガーデンチャペル」
「ガーデンチャペル?」
「フラワーファームにある青空教会」
まだ寒くて花も咲いてないし、温室内の教会みたいだけどね、と説明して腕時計を見た。
「そろそろ始まってると思うよ、結婚式」
温室の奥にあるから一般客も後ろから見れるし、と酒井さんが言ったところで部屋の前に着いた。ガーデンチャペルがあることは情報誌で知ってる。でも下見だなんて八木橋には何も聞かされていない。
「本当に知らなかった?」
「あ、うん……」
「もしかしてヤギ、サプライズのつもりだったかな。だったら青山さんごめんね」
「ううん」
酒井さんは、今日はヤギは早番だからそのうち連絡あると思うよ、と言い、荷物を中に置いて出て行った。窓を開ける。4月末とは言えまだ寒い。新緑と言えるほどの若葉も無く、窓下にある数本の桜はまだ咲き始めたばかり。冷たい風に身震いし窓を閉めると携帯が鳴る。