雪の足跡《Berry's cafe版》

「満開ならもっと綺麗?」
「ああ。でも俺はこのくらいが好きだな」
「このくらい?」
「満開だと散り落ちて終わりになるからな。これから咲くんだなって想像するとワクワクする」
「ふうん」


 八木橋の言ってる意味は分かってはいた。でも私は私のことを言われてるみたいでショックだった。もう28、女性に年齢なんて関係ないって思ってたけど、肌や体のラインはピークを越えている。もう散り落ちるしかないって言われた気がした。20歳位の元カノなら今の桜かもしれない。


「ユキに見せたかったんだ、この桜」


 私より若くて控え目で。少なくとも私よりは子供を産める可能性のある元カノ。


「浦和にも桜はあるだろうけどさ。ここのは格別」


 本当は元カノに見せたかった?


「こっちに来れば毎日見れるしさ」


 まだ蕾のうちや咲き始めや満開だって散り始めた桜だって眺め放題だぞ、と八木橋は笑った。私は体が震えていた。寒かったのもあると思う。それに気付いた八木橋は着ていたダウンジャケットを脱いで私の肩に掛けた。

 川沿いの遊歩道を下流へ歩く。小さな川には長丸太が掛けられていて、地元の子かホテルの宿泊者かそれを渡り、遊んでいる。八木橋は優しい目でその子供達を眺めていた。

 15分程歩いただろうか、並木は終わりになる。歩道の脇には林を切り開いた所にテントが張られ模擬店が出ていた。その脇を過ぎて橋を渡る。

< 272 / 412 >

この作品をシェア

pagetop