雪の足跡《Berry's cafe版》
あのお見合い写真の男性だった。見ていただけただけでも嬉しいです、とほんのりと顔を赤くしてポケットからハンカチを出すと額の汗を拭き始めた。
「あ、青山さん!」
男性は再び深々と頭を下げた。あの、頭を上げてください、と声を掛けるけど全く動かない。
「い、一度でいいので食事してください!!」
「へ??」
「OKの返事をいただくまで動きません!」
と、更に頭を下げた。私は突然の訪問者に驚いた。でもちょうど良い。
「是非、ご一緒してください」
「ほ、本当ですか! ああ、良かった」
柏田さんは上体を起こして再びハンカチで汗を拭く。お昼になるまで待合室で待ってもらうことにした。
パソコンに向かいながら彼を盗み見る。中肉中背、髪だって薄い訳じゃない。真面目そうだし、何故40過ぎてまで独身なのかは分からない。ソファに腰掛けてマガジンラックに差された健康雑誌を丁寧に読んでいる。
ふと目が合う。恥ずかしそうに会釈してまたハンカチを額にやる。なんだか可愛く思えて笑ってしまった。この人と結婚するかもしれない。そしたら穏やかな生活を微笑ましく過ごせる、そんな気がした。