雪の足跡《Berry's cafe版》

 これくらいは僕の世代では当たり前の知識ですし、と恥ずかしそうに苦笑いをした。

 料理が届く。ドリアを冷ましながら口に運ぶ。柏田さんは左手に持ったフォークの背にナイフでライスをきちんと盛り、口に入れるとゆっくりと噛む。八木橋とは正反対の食べ方。きっと八木橋ならフォーク1本でナイフなど使わずガツガツ食べるだろうなと思った。食後にドリンクバーにコーヒーを取りに行く。柏田さんの分もトレーに乗せて席に運ぶ。八木橋なら一緒にドリンクバーに行き、ココアか甘い炭酸飲料を注ぐと思った。

 八木橋のことばかりを考えてる私。柏田さんには申し訳ないと思う。でも別れたばかりだし自然な心理だから仕方ない。柏田さんにバレてる訳じゃないし、と心の中で言い訳をする。そのうちにきっと思い出さなくなる。そのうちに忘れる。いつか笑い話になる。


「柏田さん」
「はい」
「食事は一度だけでいいんですか?」
「え……いや、その……」


 ハンカチを取り出した柏田さんに、美味しいケーキが食べたい、と申し出ると彼は嬉しそうに返事をした。




< 279 / 412 >

この作品をシェア

pagetop