雪の足跡《Berry's cafe版》

 夕飯を終え、ダイニングで情報誌を見る。柏田さんも埼玉在住だから結婚するなら式場もこっちになる。名の知れたホテルを始め、式場はいくつもあった。でもどこもかしこも似たような造りと似たようなサービス、これと言ってピンだった来る式場はなかった。柏田さんのイメージなら教会というよりは袴で神前式、だからチャペルばかりが紹介されている情報誌では想像がつかないのだ、と勝手に解釈していると携帯が鳴った。


「……」


 画面に表示された氏名に出るか出まいか怯んだ。八木橋岳志……。心臓が飛び出しそうに高鳴る。嘘をついて別れを切り出した罪悪感。でも出ないのもコドモ過ぎると思い、通話ボタンを押した。


「もしもし、オバ……あ、おねえさん?」


 幼い女の子の声だった。オバ……おねえさん? おねえさん、というフレーズからワントーン声色が上がる。聞き覚えのある声。


「な、菜々子!」


 ご無沙汰してます、おねえさんお元気ですかあ?、と超ぶりっ子の鼻に付く話し方をする。


「何なのよ、気色悪いわね。オバサンって言ったらいいじゃない」
「菜々子、オバサンのことオバサンって呼んだことないもん!」


 菜々子の間抜けな答えに吹き出したのか、電話口の向こうで八木橋が笑う声がした。まだ別れて僅か数日なのに、ものすごく久しぶりに聞いた気がした。ゴールデンウイークを利用して八木橋のいるホテルに出掛けたのだろう。


「菜々子ね、今日はお泊りするの」
「ホテルでしょ、そんなの当たり前でしょ?」
「違うもん、ヤギせんせのお部屋に泊まるの」


 菜々子は、いいでしょ、羨ましい?、とわざとらしく聞く。

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