雪の足跡《Berry's cafe版》

 急に電話の向こうが静かになる。僅かに鼻を啜る音が聞こえた。そしてガサガサと受話器に何かが当たる音がした。


「コドモ相手に何をムキになってんだよ、アホ!」


 電話の相手が八木橋に変わる。電話口の向こうで、せんせ、せんせ、うわあっ、と菜々子の泣き声がした。


「ムカつくからよ!、大体それ嘘泣きに決まってるでしょ??」
「仮に嘘泣きだって、そこまで追い詰めることないだろ」


 わあわあと喚く菜々子の声。ヨシヨシと宥める八木橋の声。


「なんで嘘泣きって分かるんだよ」
「なんでって」
「お前だって散々やって来たんだろ? だから分かるんだろ??」


 図星だった。父の前では何度も嘘泣きをした。母に怒られて父の懐に逃げ込む。泣くフリをする。ユキも反省してるんだし母さんもういいだろう?、と父が母を宥める。母は諦めてキッチンに戻る。そんなことが幾度となくあった。幼稚園から小学校から男の子を泣かせたと報告を受けていた母は当然、嘘泣きだと見抜いていた。


「だから何よ」
「アホ」
「アホアホ言わないでよ」
「お前がアホなんだからしょうがねえだろ」
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