雪の足跡《Berry's cafe版》

 翌日、父は何事もなく出勤する。


『ユキ、今日お利口にしてたらアイスクリーム買ってくるから』
『うん! おりこうさんにしてる』


 ユキには甘いんだからと父に呆れながらもこれで一日ユキは少しは我慢してくれるだろうと妥協した。多分、私が好きだったアニメキャラのアイスクリーム。1個50円が主流だった当時にそのキャラアイスは100円もした。中身はなんてことはないアイスクリーム、蓋に絵が印刷されているだけ。普段からおやつも手作りしていた母は着色料の入ったそのアイスが気に入らなかった。

 父親の言い付けを守ってジュースを少しずつ飲む、抱っこをせがまない。小さいながら頑張る娘に切なく思いながらも自分の手作りおやつよりもキャラアイスを喜ぶ娘にため息も出た。でもお陰で添い寝をしながら自分も横になれた。
 夜中に父が帰宅する。私は鍵が回る音に目を覚まして飛び起きる。玄関までヨタヨタと歩きながら、お父さんアイスはアイスは?、とねだる。ダイニングに行き、父は私に一口ずつアイスを放り込んだ。


『美味しいか?』
『うん!』


 私は、明日もおりこうさんにしてるから明日も買って来てね、とねだる。父は、分かったよ、と返事をして指切りをする。


『お父さんだいすき!』


 母は私を寝室に連れていき寝かせる。私の寝顔を見ながら涙が出た。熱で辛かったのもある。それと虚しさ。自分の辛さを押し殺して娘の世話をしてる。なのに誰も自分のことには気付かない。母親が子の面倒を見るのは当たり前だ、と。

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