雪の足跡《Berry's cafe版》

 ドアの開く音がして父が入って来ることに気付き、慌てて涙を拭う。その頬に冷たいものが当たった。


『母さん、起きられるか?』
『はい……』


 父は手にしていた物体を母に差し出した。


『これ……』


 カップのアイスクリームだった。当時日本に上陸したばかりの濃厚なタイプ、1個200円以上もした高級品だった。


『どうしたの、父さん』
『食べなさい』


 家を建てたばかりの母は毎日倹約してテレビでそのアイスのCMを見てはため息をついていた。


『俺の小遣いから買ったんだ。いいだろ?』
『でも』
『なんだ、ユキみたいに食べさせて欲しいのか?』


 父さん馬鹿ね、と言いながら受け取り、蓋を開けて食べた。初めて食べる濃厚な味に、父の優しさに嬉しくて涙が出た。


『明日、休み取ったから』
『え? 今忙しいんじゃなかったの?』
『母さんも罹ってるだろ、インフルエンザ』


 父は見抜いていた。母が我慢して隠していたことを。


『ユキそっくりだな、我慢強い性格』
『私がユキに似たんじゃないわ、ユキが私に似たのよ』


 父は笑いながら、家事は俺がするから気にせず休みなさい、と部屋を出ていった。

< 299 / 412 >

この作品をシェア

pagetop