雪の足跡《Berry's cafe版》
ヤギ用の餌を買い、二重扉になっている柵の中に入る。近寄ってきた1匹に手で餌をやる。私に気付いた他の数匹のヤギ達も私を囲むように餌をねだる。餌が欲しいヤギ達は私によじ登るように前足を掛けてきた。四方八方囲まれた私は身動きが取れなくて、逃げられなくなっていた。
「やっ……どうし……」
目を開ければヤギの口、耳からはヤギの鳴き声。腕を足で引っ掻かれたのかヒリヒリする。突然、私を囲んでいたヤギ達は急に回りに散れた。
「……?」
辺りを見回すと柏田さんが新たに買った餌を地面にばらまいていた。
「青山さん、今のうちに逃げて」
私は手にしていた餌を離して柵から出た。辺りにいた他の客はジロジロと私を見て笑っていた。
「柏田さんごめんなさい」
「いいんです、青山さんが無事なら」
助けてもらったのに何となく腑に落ちなかった。自分が間抜けだと言われたみたいで逆に恥ずかしかった。ヤギ達の中でも少し大きいヤギが三日月の瞳孔で私に一瞥して馬鹿にするようにメエと鳴いた。
「ムカつく」
八木橋ならこんなふうに馬鹿にして笑い飛ばしてくれただろうか。他の客と一緒に笑ってからかってくれたと思った。
昼に牧場自慢のジンギスカンを食べる。私が帽子型の鍋で焼いて柏田さんの皿に取り分ける。紙ナプキンを首から下げた柏田さんは、女性に焼いてもらう肉は美味しいですね、と味を確かめるようにゆっくりと食べる。