雪の足跡《Berry's cafe版》
メルマガのことだろう。菜々子と八木橋の婚前写真。
「見たわよ。随分と幸せそうね」
「ああいうのね、マエドリっていうの。知ってたあ?」
前撮り。忙しい披露宴の合間に写真を撮るのではなく、余裕のある式前に撮っておく。親かスタッフに入れ知恵されたのか、それを生意気に説明する。
「あっそ」
「オバサン、いいの?」
「何が」
「ほんとにほんとに菜々子、ヤギせんせとケッコンしても」
「約束したんでしょ、ヤギと。16歳になったら結婚して唇にチューするんでしょ?」
「ほんとにほんとにほんとに、いいの?」
「もうっ、しつこいわね!」
急に電話口の向こうが静かになる。コドモ相手に言い過ぎたとは思ったけど、菜々子なら泣かないと思った。泣いても嘘泣きに決まってる。
「オバサンのばかあっ!……、ヤギせんせはヤギせんせは……」
鼻を啜る声で菜々子は喋り始めた。嘘泣き。私は面倒臭いと思いながら相手をした。
「ヤギが何なのよ」
「ヤギせんせ、オバサンとケンカしたって……元気なくて……オバ……ばか……」
電話の向こうで菜々子はわんわん泣く。迫真の演技だと初めは呆れていた私も段々と不安になってきた。あまりにも泣くし、それでも喋ろうとする。
「オバサ、ンの……ばか、ばかあ~っ!」