雪の足跡《Berry's cafe版》
ケーキが届く。ひとつには細いキャンドルが3本立っている。スタッフは、誕生日おめでとうございます、と言いながらそれを八木橋の前に置いた。
「いや……あ……」
驚いた八木橋はその大きな手を口元に当てて顎を擦る。
「私が頼んだの。明日誕生日だなんて知らなくて何も用意してなくて」
「ユキ……」
「は、早く消してよ。帰るの遅くなるから食べ終えたら板を返して」
顎に手をやるのは驚いてどうしていいか分からないリアクション、まだ点でしかない赤ちゃんの写真を見てそうした八木橋を思い出した。僅か1週間だった。でもこの人の赤ちゃんを身篭れただけでも幸せだったと思う。ありがとう、そう心の中で呟いた。
八木橋はキャンドルの火を吹き消した。私は食べるフリで俯く。涙が零れたことに気付かれたくない。
「……ハッショウ」
八木橋が呟いた。