雪の足跡《Berry's cafe版》
「ハッショウ?」
「柏市立第八小学校」
「……ヨンチュウ」
「ヨンチュウ?」
「柏市立第四中学校。なんか味気ねえよな、数字なんてよ」
八木橋はキャンドルを取り除き、ケーキを一口食べた。
「弟は二つ下。デキ婚で去年結婚した。嫁さんはユキと同い年」
ユキは早生まれだから学年は違うか、と八木橋は話を続ける。私は呆気に取られて相槌も打てずにいた。八木橋はコーヒーを啜ってはケーキを口に入れ、実家の話をする。はっきりしない弟の態度に業を煮やした彼女が弟を騙して行為を誘い、その結果妊娠、それで実家に彼女の親が怒鳴りこんで騒ぎになったこと、両親は昔からトレッキングが趣味で毎年尾瀬と五色沼に出掛けて、親父はカメラで写真を、お袋は水彩でスケッチを、山に出掛けては構図が違うと喧嘩ばかりしてる、と。
「聞いてるのかよ」
「う、うん……」
「なんだよ、その返事。知りたくねえのかよ?? 出身校知りたいって言ったのはユキだろ?」
八木橋はズルズルとコーヒーを啜る。
「だって私、私は……」
別れたのに、八木橋だって分かったって言ったのに。そう思いながら八木田橋の顔を見つめる。ケーキ皿を手にしていた八木橋は私をチラッと見て、アホ、と言うと目を逸らして残りのケーキを一口に入れた。