雪の足跡《Berry's cafe版》
ケーキを食べ終えて板を取りに八木橋の部屋に向かう。ミニコンビニの脇の鉄扉を押し開けて長い渡り廊下を歩く。階段を登り、八木橋の部屋に入る。
「ほら、新品みたいだろ」
「うん……」
入って直ぐの壁に2組の板が立てかけてあった。大小、同じ柄のスキー板。シリアルナンバーの刻まれた限定モデル。横に並べられた板たちは、まるでここが自分の居場所だと主張するかのように寄り添う。
「……イスタン」
「はあ?」
「何でもない。板、ここに置いといてもいい?」
「ああ。構わないけどよ」
その民族が住むべき場所。八木橋と私を紡いでくれた板はここがそうだと私にそう語り掛ける。
失うんじゃない。怖いことなんてない。確かに仕事も辞めるし浦和での便利な生活も手放す。生まれ育った家も土地も離れる。確かに失う。でも失うばかりじゃない、ここで新しく何かを作る。作るために来るんだ、って瞬間的にそう頭に浮かんだ。八木橋と一からすべてを。そうしてここが私のイスタンになる。
「あ、鍵預かってる」
「泊まってくだろ」
「うん……」
酒井さんから渡された鍵の番号は315。初めてここに来たときに宿泊した部屋。八木橋に初めて抱かれた部屋。