雪の足跡《Berry's cafe版》

 父さん……。遺影のように優しく笑ってくれるだろうか、今チャペルへと向かう父親のように泣くだろうか、そんなことを想像して涙が溢れる。八木橋はそっと指で私の涙を拭う。


「きっと親父さんも空から見てくれるだろ」
「うん。母もそう言ってた。父さんが空から見て号泣して当日は大雨ね、って」
「やっぱり雨か。蛙の大合唱でゴスペルの代用にするか?」
「ひどい」


 館内なら神前式もあるけどどうだ?、と聞かれた。八木橋の袴姿も似合うと思う。白無垢を着て角隠しを被って、隣に寄り添うのも悪くないって思った。

 携帯が鳴る、私の携帯。画面には知らない固定電話の番号。でも昨日の菜々子の番号ではなかった。市外局番から多分猪苗代の地域のようだった。八木橋から少し離れてとりあえず出る。


「あ、青山さん?」


 酒井さんだった。スクールの申込書から番号調べて掛けたんだ、突然ごめんね、と説明しているけど、何処か慌てた様子だった。


「どうかしたんですか」
「実はね、ミオちゃんが」
「ミ、オ……?」


 初めて聞く名前。そんな知り合いは私にはいない。


「ミオちゃん。ヤギ姉には言いにくいんだけどさ」
「酒井さん?」
「ヤギの元カノが来てるんだ」


 八木橋の元カノ??

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