雪の足跡《Berry's cafe版》
「ファームとホテルを繋ぐ歩道で転んで膝を擦りむいて、今医務室で手当てしてもらってるんだけど」
今いる場所からホテルを見上げる。砂利を敷き詰めた歩道。そこで転んだならきっと八木橋と私がいるのを目撃した筈。手を繋いでいた訳じゃないしキスした訳じゃない。でも八木橋と私の立つ距離や雰囲気で関係は察したと思う。
「じゃ、もしかして」
「うん。多分ヤギに会いに来たんじゃないかな」
でも元カノは擦りむいた膝が痛いのか泣くばかりで何も話さないし、ヤギを呼ぶねと声を掛けると首を横に振るし、と酒井さんは言った。
「東京からわざわざ来てくれたんだし、ヤギと会った方がいいとは思うんだけど、澪ちゃん本人がさ否定してるのにヤギを呼ぶのも変だし」
私より若いとは言え、大人。擦りむいただけで泣き続ける訳もない。きっと八木橋とやり直したくてここまで来たんだと思った。
「どした?」
「あ、うん……」
私の冴えない表情に気付いた八木橋は、私に近寄り声を掛けてきた。正直、元カノと会わせたくは無い。万一振り返したらと不安なのが本音だった。
「ミオさん、って方が来てるって酒井さんが……」
「え……?」