雪の足跡《Berry's cafe版》
板を担いで部屋に戻る。八木橋とお揃いの板。部屋に入りウェアを脱ぐ。八木橋とお揃いのウェア。ワインを注ぎ、グラス片手に米を研ぐ。備え付けの炊飯器にセットする。冷蔵庫を開けておかずを考える。昨日今日とお昼をレストハウスで取ったから食材は余り気味。ご飯が炊けるまで、大浴場に行き時間を潰す。露天風呂に入り肩まで浸かって茫然と景色を眺める。
きっと認めてしまっている。認めない方がいいと頭の中では言い聞かせてる筈なのに。旅行も3日目で残すはあと2日、八木橋と一緒に過ごせるのはたった48時間。それだってベッタリ一緒にいられる訳じゃない。この旅行が終われば私は浦和にある自宅に戻る。もう八木橋と会うことなんてないし、第一、八木橋は遊び目的。自分の気持ちを認めて辛くなるのは自分なんだから認めない方がいい。逆上せそうになり慌てて上がる。外気はひんやりしてすぐに正気に戻してくれる。支度をして部屋に戻り食事をした。
翌朝、いつものようにパンとコーヒーで食事を済ませ、ゲレンデに出る。12月31日、大晦日。人手もピークを迎えるのか、まだ8時半だというのにゲレンデには結構な人がいる。今日は雪も降り始めて、辺りの景色は一辺した。眼下に広がる筈の湖面は降る雪で見えず、枯れ木立は白く化粧をし、カラフルなウェアもくすんだ色に見える。リフトの運行が始まり、列に並ぶ。シートに座る。隣には……誰もいない。
下のゲレンデに目をやる。客のカラフルなウェアの中でも赤いウェアは目立つように思う。白い画面の中を赤い点が悠々と動く。あの滑りは八木橋じゃない。きっと別のインストラクター。それでも赤い点を目で追う自分がいる。
しばらくロマンスリフトの迂回コースで滑る。昨日、八木橋と滑ったコースを何本も下りた。昨日、八木橋が残した跡を探すように滑ってみる。私を挑発するように大きく蛇行したり、逃げるように短いターンで一気に滑り下りたり。そして何本目かでジャンプした段差目掛けて滑走した。
フワリと宙に浮く。着地したけど、上半身が追い付かず尻餅を着いた。片板が外れて流れて数メートル下で止まった。