雪の足跡《Berry's cafe版》
八木橋はそう言った私を見て驚いて、大きな手を口元に当てた。
「一人で、か?」
「そうみたい……酒井さんが、ミオさんはヤギに会いに来たんじゃないかって」
八木橋は目を逸らすように下を向いて顎をこする。少しの間そうした後、再び私の目を見つめた。
「ユキ」
「何」
「澪に会いに行ってもいいか?」
八木橋は、ユキが嫌なら行かない、と言った。会わせたくない。でもここで逃げたら駄目だって自分に言い聞かせた。
「行ってあげて」
「ユキ」
八木橋は、別れるって駄々をこねたマリッジブルーの私を支えてくれた。必ず帰ってくるって信じてくれた。だから私も信じる。
「そこの歩道で転んで医務室にいるって」
「いいのか?」
「いいも何も。ほら早く早く!」
八木橋は、ユキ悪い、と言って坂を駆け登っていく。私は通話途中だった携帯で酒井さんに八木橋が医務室に向かったことを伝えた。