雪の足跡《Berry's cafe版》

 言葉は悪いと思うけど、同情した。でも私だって八木橋のことは譲れない。


「そう。ミオさん、幸せになって」


 元カノの嘘に合わせたのもあるけど、心からそう思った。


「私も幸せになる。ヤギも必ず幸せにする」


 あの時、私もそう思った。私以外の人間が八木橋に寄り添うのなら八木橋を幸せにしてくれる人がいい、その人自身も幸せになれる人がいい、って。だから私自身が幸せになることが元カノへのせめてもの償いになる。自己満足かもしれない。それでも私が元カノにしてあげられるのはそれしかないから。


「私、ヤギを大切にするから。だからミオさんも新しい彼を大切にしてね」


 八木橋が大切にしていた女の子、八木橋以外の人間にはなるけど幸せにしてあげて欲しい。きっといつか元カノに似合う素敵な人を見つけて幸せになって欲しい。

 元カノは俯いたまま頷いた。私の気持ちが伝わったかは分からない。でもきっと、同じ人を好きになった同性として私の気持ちを理解してくれる気がした。

 酒井さんは元カノの肩を叩き、外へと促した。ベルスタッフにタクシーを頼み、玄関に横付けさせる。


「澪」


 後ろから八木橋の声がした。

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