雪の足跡《Berry's cafe版》
更にブルブルと振動する携帯が地面でゆっくりと回転するように動いたのもラッキーちゃんを煽る原因になった。前足を伸ばし伏せ、後ろ足のフットワークを効かせながら携帯に吠える。そして携帯の着信音が切れて動きも止まるとラッキーちゃんは威嚇するのを止めた。しかしホッとしたのもつかの間だった、ラッキーちゃんは携帯に飛び掛かり食いついた。そこに腰を下ろし、壊そうと携帯をかじる。飼い主やスタッフが取り返そうと携帯に手を出すと、唸り威嚇した。為す術も無く野次馬と共にそのまま現在に至る、と。
「逝っちゃってるね……」
「そだな……」
私と八木橋の会話に、飼い主の女性は、申し訳ありませんすみません、を連発した。直にスタッフがドッグフードを持って来て地面にばらまき、匂いにつられたラッキーちゃんはあっさりと携帯を離した。ラッキーちゃんは美味しそうにドッグフードを食べ始める。その隙に八木橋はようやく携帯を拾い上げた。液晶画面にはひびも入り、ボタンは歯型が食い込んでいた。もちろん画面は真っ黒のまま。
「でもかえって良かったか。今日ならユキと買いに行けるし」
「え?」
「携帯」
八木橋の言葉に隣を見上げる。八木橋が優しい眼差しで私を見ていた。
「なあ、今度こそお揃いにしないか……?」
でも私はどうしていいか分からず、返事が出来なかった。元カノとお揃いにしてた八木橋、私に気を遣っているんだと思う。
「け、結婚して同じ部屋で同じ携帯使ってたら、間違えそうだし」
「そんなのユキだけだろ、アホ」