雪の足跡《Berry's cafe版》

「出場したところで多分初日で予選落ちよ」


 父さんが言った通りね、と母は笑った。


「ユキは自分を責めるから内緒だぞ、って口止めされてたのよ。でもね、ユキ」


 母は父の遺影を手にして眺める。


「ユキもいずれ分かるわ、父さんの気持ちが。今でも分かるんじゃないかしらね」


 ふと恋雪を思い出した。僅か数日で流産してしまったけど、可愛いく思えたし大切にした。無意識に私の全てが赤ちゃんを中心に回る。


「うん……」


 八木橋だって父と同じことをしただろう、私が身篭っただけであんなに喜んでた。
 そのとき私の携帯が鳴った。


「おう」


 八木橋だった。昼間は悪かったな、とバツの悪そうにボソリと言う。


「技術選って研修会に参加しないと入賞難しいんでしょ?」
「ああ、そだな」


 毎年微妙に変わるしな、今年は去年と違って無駄のない卒のない滑りが求められたし、と八木橋は語り始めた。スキーのことになると雄弁になる。子供達にスキーを教えるのも好きだろうけど、八木橋だって技術選に専念したい気持ちは絶対にある、そう確信した。


「ねえ」
「何だよ、人が気持ち良く語ってるのを遮るなよ」
「語るくらいなら実践したらいいじゃない」
「はああ?」
「研修会。技術選の研修会、見たわよ」


 八木橋は少し黙ったあと、ああ、あれか、ごみ箱から拾ったのかよアホ、と吐き捨てた。

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