雪の足跡《Berry's cafe版》
 私は100個近い数のサシェを作り終えて伸びをした。目についたのは数個の段ボール。


「ねえヤギ、ヤギの荷物今のうちに運ぶ?」
「いや。明日ユキの荷物が届いたら運ぶ」


 手が空いた今のうちにと思うのに八木橋は首を横に振る。


「俺の荷物を先に入れちゃいけない気がしてさ」
「ヤギ?」
「一緒に運び込みたいんだ。一緒に足跡を付けるって言うかさ……」
「そだね」


 恥ずかしそうに頭を掻きながら八木橋は言った。そしてズリズリと畳の上を滑るようにして私の前に来て、私の肩に手を置いた。顔をゆっくりと近付けて軽く唇を合わせた。同じことを考えていて、私は嬉しかった。


「技選が終わったら新婚旅行に行こう」
「うん」


 唇を浮かせた八木橋が呟いた。そして再び唇が重なる。


「ユキの好きなところでいい」
「新潟がいい。父が民宿を建てるつもりでいた場所に行きたい」
「妬けるな」


 再び唇を重ねる。


「技選頑張るから。恋雪のためにも」
「うん……」


 きっと恋雪はこのために出直してくるんだと確信した。八木橋がもう一度技術選に向かうために。技術選を終えたら必ず恋雪は舞い降りてくるって。


「あと、それから」
「何」
「お前いい加減にヤギヤギ言うのを辞めろよ。ユキだってヤギになるんだろ?」
「あ……うん。た……」


 岳志、と言葉にするのが恥ずかしくて、最初の一文字で止まってしまう。


「た……」
「早く言えよ」
「たけ……」
「ほら。言わないとキス出来ないだろ」

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