雪の足跡《Berry's cafe版》
「たけ……。ん?」
そのとき八木橋の携帯が鳴った。八木橋はため息をつきながら私から離れると携帯を手にして通話に出た。はい八木橋です、と丁寧に言うところをみると仕事の用件だと思った。
「ラッキーちゃん? あっ、ええ、分かります」
八木橋はちらりと私を見て通話を続ける。はい、ええ、と相槌を打ち、すぐに向かいますと告げて通話を終えた。
「仕事?」
「いや。ラッキーちゃん覚えてるか?」
「うん。携帯を壊したコでしょ?」
「飼い主がフロントに来てるって」
一緒に来てくれるか?、と言いながら八木橋は立ち上がる。私は理由は分からなかったけど八木橋の後をついていった。長い渡り廊下を歩く。
コンビニ脇の鉄扉からロビーに出ると、自動ドアの向こうにラッキーちゃんと飼い主がいるのが見えた。ズカズカと八木橋が自動ドアへと向かうと途中でラッキーちゃんは気付いた。突然八木橋に向かって吠えだし、飼い主は慌てた。
「ラッキーちゃんっ、めっ!」
そんな叱りの言葉を他所にラッキーちゃんは吠え続ける。
「すごい嫌われようだね」
「うるせえよ」
「もしかしてヤギ、犬苦手? よく言うじゃない、犬って嫌いな人が分かるって」
「……うるせえし」
八木橋はボソリと呟いて外に出た。ほんのり顔を赤くした八木橋、本当なんだと思った。結婚を決めたけどまだまだ知らないことは沢山ある。それもいいかなって思う。これから少しずつ、知っていけばいい。
ラッキーちゃんが吠える中、八木橋と飼い主の女性は挨拶をする。そして女性は手にしていた紙袋を八木橋に差し出した。