雪の足跡《Berry's cafe版》
「これね、お祝い」
「お祝い?」
樹脂粘土で作った写真立てなのよ、良かったら使ってくださらないかしら、と女性は恥ずかしそうに言った。
「フロントに預けて帰ろうと思ったんだけどフロントの方がね、お祝いなら尚のこと直接お渡ししてくださいとおっしゃられて」
八木橋は紙袋から写真立てを取り出した。白い木枠はラベンダーやコスモス、白い小花の樹脂粘土で飾られていた。素敵ですね、と私が言うと女性は照れたように笑う。
「ここのフラワーファームのイメージで作ったのよ」
「じゃあ手作りなさったんですか?」
「恥ずかしながらそういうことになるわね」
二人で頭を下げてお礼を言う。見ず知らずではないけれど、まさか名前も知らない人からお祝いをもらえるなんて思いもしなかった。しかも手作りで……。
式が来週末で住まいはホテルの宿舎で、と話を終える頃にはラッキーちゃんも吠え疲れたらしく、伏せて首を垂れていた。私がしゃがみ込むとラッキーちゃんは首を上げ上目遣いに私を見る。
「ラッキーちゃんは幸せだね、優しいお母さんがいて」
頭を撫でると少しだけ尻尾を振った。
「私、子供がいなくてね」
「すみません、私……」
そんなつもりで言った訳じゃなかった。
「いいのよ、気にしないで。優しいお母さんに見えたのなら私も嬉しいわ」
女性は、お幸せにね、と笑顔で言い、駐車場へと歩き出した。二人で姿が見えなくなるまで見送った。
「もし私が」
「何だ」
「子供が出来なかったら犬飼ってもいい?」
「アホ。駄目に決まってるだろ」
八木橋は私の頭をポンポンと叩いた。