雪の足跡《Berry's cafe版》

「俺を幸せにするって。今ならあの言葉が分かるってさ」
「あ……うん」
「幸せになるんじゃなくて、幸せにする」


 あのときは勢い半分だった。澪さんに八木橋を取られたくない一心だったし、私の気持ちを澪さんにも分かって欲しかったから。今までの生活を手放しても欲しかったもの。


「ねえ、澪さんの会社って」
「ペットフードの会社。あいつ犬好きだったからな」
「ふうん……」


 ラッキーちゃんが携帯をかじって壊したのは神様の、ううん、犬好きな澪さんの思し召しかもしれない。


「何、納得してんだよ。ほら続き」
「え、やっ、まだ続けるの?」
「当たり前だろ、早く」
「いい加減諦めたら?? 2度も邪魔が入って、ほら2度あることは3……」


 話し途中で八木橋に唇を塞がれた。片手で後頭部を押さえられてもう片手で背中から抱きしめられて、身動きが取れない。


「ユキ。ほら」
「ヤギはヤギでいいじゃな……」


 再び塞がれて息も苦しいくらいに熱くキスされる。


「ったく。強情な」
「お互い様でしょ」
「ユキ、今夜覚えてろよ。俺、明日も休みだし」
「へ??」
「絶対言わせてやるからな」
「や……」


 八木橋は再び唇で私の口を塞ぎ、服の上から体を撫で始めた。八木橋の手は背中から腰に移動する。まずは前哨戦だと私を抱き上げた。

 私は足をバタつかせて抵抗する。八木橋はお構い無しに窓辺へ連れていき、外を眺めた。私も窓に目をやる。見えるのは晩秋の、山々。

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