雪の足跡《Berry's cafe版》
「青山さん」
仕事で来られない八木橋に代わって酒井さんが駅まで迎えに来てくれた。
「青山さんって呼ぶのも今日が最後だね」
「うん」
「明日からは八木橋さんって呼べばいいかな?」
「や……」
からかわれて顔が熱くなる。酒井さんはそんな私を見てケラケラと笑う。そして明日からもよろしくお願いします、ヤギ姉さん、と言った。
「天気、持つといいね」
「うん。でも温室教会だから」
「でもバルーンリリースするでしょ?」
「うん……」
「俺仕事だから式は参加出来ないけど、披露宴は行くからね」
式や披露宴が屋内でもバルーンリリースだけは外の中央広場になる。
スーパーに寄り、買い物をしてから宿舎の前で降ろしてもらった。荷物を抱えて部屋に入る。
「……」
誰もいない部屋、八木橋はまだ仕事。私は買ってきた食材を冷蔵庫にしまう。米を研ぎ、新品の炊飯器でご飯を炊く。ここが今日から私の自宅になる。殺風景な部屋は心許なくて不安になった。
しばらくしてドアノブが回る音がする。
「おう、来てたか」
「うん」
八木橋だった。
「ただいま」
「……お、お帰りなさい」
「どした?」
「ううん……」
八木橋は私の頭をポンポンと叩く。
「遠慮するなって言ったろ」
「うん……」