雪の足跡《Berry's cafe版》

 コーヒーを入れ、朝食を作り、二人で食べる。昨日泣いてスッキリしたのか寂しくはなかった。今日は逆に八木橋が緊張していた。披露宴最後の挨拶のメモをひたすらに暗記している。


「噛んだら酒井に一生笑われそうだし」
「ぷっ」
「うるせえよ!」


 そんな八木橋を可愛いと思った。時間になり部屋を出て、長い渡り廊下を歩く。昨日より確実に冷えている。すれ違ったスタッフに、おめでとうございます、と声を掛けられ二人で照れた。

 八木橋とはブライダル部門の入口で別れ、私はパウダールームに入った。大きな鏡の前に座り、髪を結われ、メイクを施される。その途中で母が入って来たのが鏡に映った。


「ユキおめでとう」


 既に留め袖に着替えていた母は胸元に父の写真を持っていた。


「父さんも連れてきたわよ」


 鏡に映る父の遺影。小さな写真立ての中で優しく笑っている。


「母さんが言った通り、父さんが号泣して雨ね」
「でしょう? 懐かしいわね」
「何が」
「あのオレンジのドレスを着たときと同じだわ」
「え」
「こうしてお化粧されて変わってく自分の顔を見てね、満足そうにしてた。父さんもそれを満足そうに見ててね」


 母が父の遺影を見る。


「父さん、ユキの結婚式よ。父さんそっくりの人を選んで……」


 コルセットを絞め、ドレスに着替える。ベールを付けて立ち上がり、鏡を見る。スタッフや母がぱあっとにこやかになり、私は嬉しいのと同時に恥ずかしくなった。

< 385 / 412 >

この作品をシェア

pagetop