雪の足跡《Berry's cafe版》

 スタッフが新郎さまをお呼びしますね、とパウダールームを出て、しばらくして八木橋はやって来た。


「おう。ユキ……」
「な、何」
「馬子にもナントヤラだな」
「ヒドイ。ヤギこそ」
「うるせえよ」


 濃いめのグレーのタキシードを着た八木橋はほんのり顔を赤くした。そして母に気付き、今日はよろしくお願いします、と頭を下げる。父の遺影に気付いた八木橋はそれを見つめた。


「お父さんにも見せてあげたかったですね」
「そうね。でもきっと空から見てるわよ」
「はい……」


 スタッフから青山の親族が到着したのを聞くと母は相手をするのに控室に戻っていった。

 ホテルのロビーにある螺旋階段へ写真を撮りに行く。宿泊客が私達を見て笑顔になる。スタッフにからかわれて八木橋が汗をかく。勿論ベルスタッフでロビーにいた酒井さんにも。


「ヤギ格好いい」
「うるせえ!」
「ヤギ姉も惚れ直した?」
「そだね」
「惚れ直したと言えば菜々子ちゃん。渋滞に巻き込まれて遅れるって連絡もらった、披露宴には間に合うと思うよ」
「ああ」


 ホテルの玄関でも写真を撮るのに自動ドアから外に出る。袖の無いドレスを着ていた私はブルブル震えた。空を見上げれば雲行きは怪しい、今にも泣きそうな空模様。ちょうど八木橋の親族を乗せたバスが到着し、そのままロビーで出迎える。

 再びパウダールームに戻り、休憩する。薬局でお世話になった薬局長や同僚が挨拶に来ては記念写真を撮る。休む間も無かった。教会式の時間が迫り、来客がはけたところでスタッフが用意してくれたサンドイッチを二人でつまむ。


「泣く暇もねえな」
「そだね」
「やっぱりさ」
「何」
「泣きべそかいてるユキもいいけど笑ってるユキがいいな」


 式の時間が迫り、追われるようにパウダールームを出た。ホテル館内から温室教会へ移動する。

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