雪の足跡《Berry's cafe版》

「す、すぐ言い直したじゃない」
「駄目だ」


 私は立ち上がり、胡座をかいていた八木橋の前に行き八木橋の肩に手を掛けた。そして跨がるように腰を下ろす。見上げれば八木橋は鼻で笑いながら見下している。


「す、すればいいんでしょっ!」
「ああ、勿論」


 仕方なく肩に掛けていた手を八木橋の首裏に回し、自分から顔を近付けた。そして軽く軽くキスをする。実はこれは罰ゲーム、私がヤギと呼んだら私からキスをするルールになってしまった。いや、八木橋が勝手に作ったルール。


「こ、これでいい?」
「もっと色っぽく出来ねえのかよ、アホ」
「えっ」


 八木橋は私をからかうと、そのままぎゅうっと抱きしめた。


「く、苦し……」
「ごめんな」
「そう思うなら離してよっ」
「せっかく来てくれたのに研修研修でロクにいてやれなくてさ」
「あ……うん」


 研修は遠地で泊まりばかりだった。この2週間宿舎で寝たのは半分くらいで本当のところは心細かった。それも仕方ない、私が決めた道だから。技術選に悔いなく向き合って欲しい、そう思ってここに来た。

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