雪の足跡《Berry's cafe版》
翌日、早速麓にあるディーラーに行く。八木橋は店内にディスプレイされた車を見付けて一目散に駆け寄り、運転席に乗った。何かのスイッチを押したり、トランクを開けたり、八木橋はコドモみたいにはしゃいでいた。私はそんな八木橋を見て微笑まく思った。
しばらくしてから窓辺のテーブルに案内され、スタッフと話を進める。下取り車の有無、オプション、税金、自賠責保険。そうして出来上がった見積書を見て私は息すら出来なかった。
「どした」
「ううん、何でもない」
羅列された数字。勿論高級車でもないしオプションも必要最低限、それでも支給されたボーナスの10倍以上の金額だった。貯金を崩せば一括で払える。でもこの先、少なくともこの冬いっぱいは八木橋の給料はアテに出来ない。研修会、講習会、勉強会。それに掛かる宿泊費用も交通費もほとんどが自己負担……。
八木橋は契約書に判を押そうと印鑑を出した。
「ヤギっ……、あ、オプション、ちょっと考えたい」
「そっか」
スタッフは目前で契約を取り損ねて残念そうな表情を一瞬だけしたけど、今週中にご契約いただければ年内に納車出来ますよ、と笑顔で付け加えた。別段、オプションを付けたい訳じゃなかった。あまりの金額に躊躇してしまった。
帰りに昼飯をと八木橋は湖畔にあるカフェに車を走らせた。値段が少し高めのそこで、八木橋はガツガツと食べた。