雪の足跡《Berry's cafe版》
「ユキ、デザートは何がいい? チーズケーキ、種類あるぞ」
「あ……うん。でもお腹いっぱい」
「嘘つけ」
「新車買えると思うと胸がいっぱいだからかな」
「ユキらしくもねえな。そんなしおらしかったか??」
「当たり前でしょっ」
結局は注文してひとつのチーズケーキを二人で食べた。八木橋がフォークでひと欠片刺して私の口に放り込む。美味しくて顔が緩んで、また口を開けて待っていると、腹いっぱいじゃなかったのかよ、と言いながらまた放り込んでくれた。そんな小さなことが恋人みたいで嬉しくて何だか暖かかった。でもそれもすぐに終わる。会計伝票の金額を見てため息に変わった。
帰りにスーパーに寄り、食材を買い込んで帰宅する。荷物を持たされてるのに八木橋も何だかご機嫌で嬉しそうだった。玄関でドアを閉めると荷物を床に置き、私の前に立ちはだかる。
「ユキ」
「何」
「ほら罰ゲーム」
車屋でヤギって言ったろ?、と言いながら私の顔を覗き込んだ。仕方なく八木橋のシャツに手を掛けて背伸びをする。自分から軽くキスをする。こんなことを何度もさせられてるのに慣れなくて、恥ずかしくて……。ぎこちないキスに八木橋がクスクス笑う、私が怒って八木橋が宥めるように抱きしめて、今度は八木橋からキスをする。いつもそのパターン。結局は何も言えなかった。ましてやお金のことなんて口に出せなかった。