雪の足跡《Berry's cafe版》
部屋で洗濯物を畳む。八木橋は明日からの研修会に備えてバッグに外泊の用意をした。今度のは1週間、今までで一番長い研修日程。遠距離恋愛していたころはそのくらい会えないのが当たり前だったのに、何故か無性に寂しかった。
翌朝、オプション決まったら契約書に判押して来いよ、と八木橋は私に印鑑を預けて出掛けていった。一人で食べるお昼、一人で食べる夕飯、一人で見るテレビ、一人で飲むコーヒー……。まるで一人暮らしみたいだった。宿舎の共同風呂に入って部屋に戻る。布団を敷こうとして押し入れを開ける。私は間違って二人分の布団を敷いてしまった。
「……何やってるんだろ、私」
突っ込んでくれる人もいない。私は仕方なく無言で八木橋の布団を畳み始めた。折り重ねる度に布団から八木橋の匂いがした。掛け布団から、敷布団から、枕から……。畳んで押し入れの上段に上げて布団を眺める。そしてそのまま顔を八木橋の布団に埋めた。
「ヤギの匂い」
クンクンと匂いを嗅ぐ。変態か?、と突っ込む八木橋の姿が目に浮かんだ。
「あっ、ヤギじゃなくてたけ……」
喉の奥が痛くなる。そして涙が込み上げてきた。
「岳志……」
寂しくて惨めで、泣く。自分で八木橋の背中を押した癖に、と自分を責める。遠征で留守がちになるのも金銭的に余裕が無いのも頭では理解していたのに……。
仕方なく布団に入り明かりを消す。でも寂しくて寝付けなくて、コドモみたいで恥ずかしかったけど、八木橋の枕を抱いて眠った。