雪の足跡《Berry's cafe版》
翌日、私は路線バスを利用して麓に出た。印鑑を持ち、ディーラーに向かう。その途中、求人広告のフリーペーパーが目についた。
私は飛び付くようにそれを手にした。私に出来る仕事は無いか、短期で手っ取り早く稼げる仕事は無いか、ざっと目を通した。
「……」
短期の仕事もあるにはあった。この辺りには八木橋の勤めるスキー場の他にも幾つかのスキー場がある。そのスキー場スタッフやスキー場近くのホテルやペンションの求人。時給も待遇も良かったけれど、まさか結婚相手の勤める会社の商売敵に仕事をしに行く訳にもいかなかった。他には調剤薬局の事務こそ無かったけれど病院の事務もあった。でもそれは短期ではなく長期。いずれ私は子を作る、その時に母のように切迫流産になれば否が応でも仕事は休むことになる。そう考えると長期の仕事には就けない。そのフリーペーパーを眺めながらため息をつく。結局私はディーラーには行かず、そのまま宿舎にとんぼ返りした。私の心は空のようにどんよりとして、とても新車を買う気にはなれなかった。
宿舎で掃除をして一人でお茶を飲んでいると、携帯が鳴った。八木橋かと期待して出ると酒井さんだった。
「ヤギ姉、暇?」
「うん」
「美味しいケーキもらったんだ、食べに来ない?」
生菓子もらったけど食べ切れそうになくてヤギ姉も良かったら、と誘ってくれた。私はすることも無くて酒井さんにすぐ行くと返事をした。