雪の足跡《Berry's cafe版》


 アップルパイを食べ終えて洗い物をし、酒井さんにお礼を言ってスクール小屋を後にした。空を見上げれば相変わらずの曇天、冷たい風にぶるっと震えた。でも私の心は晴れやかだった。板を注文しよう、そして八方尾根で八木橋の最高の滑りを見たい、そう思った。車は今すぐじゃなくていい、買い物は不便になるけど生活に支障を来たす程じゃない。割高にはなるけど宅配だってある。車を買って乗るための維持費を考えたらその方が節約にもなる。私は宿舎に戻り、すぐに制作会社に電話をした。

 通話に出た受付嬢に担当者の名と八木橋の名を告げ、繋いでもらう。短い機械音のあと、すぐに担当者は出た。あ、ヤギさん?、見てくれた?、と電話の相手が八木橋だと勘違いしてまくし立てる。私は慌てて八木橋の妻だと名乗った。


「あ、すいません、奥さん!」
「お……」


 自分を妻だと言うのも恥ずかしかったけど、奥さんと言われるのも恥ずかしかった。担当者は、ご結婚おめでとうございます、研修会に参加くださってありがとうございます、と挨拶し、結婚早々ご主人をお借りして申し訳ありません、研修費用も本当に本当に、と何度も何度も丁寧に詫びた。


「あの、パンフレットの板なんですが……」


 私は担当者に板のことを尋ねた。今注文したら納期はいつになるのか、値段は幾らなのかと。八木橋は社員では無いけれど社割にして更にビンディングの取り付け工賃もサービスにすると言われた。


「私でも注文出来ますか?」
「えっ、奥さんが履くの?」
「いえ、ヤ……岳志さんに」


 サプライズのクリスマスプレゼントにしたい、というと担当者も喜んだ。


「ヤギさん喜ぶだろうなあ、今年は買えないって言ってたから」


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