雪の足跡《Berry's cafe版》

「ヤギさん、きっと入賞しますよ。去年の板だとアマチュア向けですから、この板なら間違いなしです!」


 私はそのあと代金を前払いで振り込むこと、仕上がったら宅配便で送ってもらうように伝え電話を切った。


「……」


 なんだかお揃いの板をけなされたようで寂しかったけど、確かにそれも事実だった。

 翌日、ディーラーに行き、契約を春先まで延ばして欲しいと伝えに行った。慣れない雪道で新車をスリップさせてぶつけたくない、と嘘をついた。少し罪悪感はあったけど、その方が私も気持ち良く新車を買えると思った。勝手に延期して勝手に板を注文して八木橋が怒りそうだけど、私はそうしたかった。


 そうして数日が過ぎ、八木橋は講習会から帰って来た。天気が良かったのか既に雪焼けして顔が逆パンダになっている。


「ユキ、ただいま! 腹減った、飯!!」


 八木橋はニコニコしながら部屋に入ってくると、畳の上にバタリと倒れるように仰向けに寝た。私は心配になって上から顔を覗き込んだ。


「ヤギ、大丈夫? 疲れた??」
「またヤギって言ったな」
「あ、や……」


 八木橋は手を私の首裏に回し、ぐいと引き寄せた。


「ほら」
「や……」
「飯の前にユキだな」
「やっ」


 八木橋と唇を合わせる。駐車場から走って来たのか息が荒かった。八木橋は私を抱えたままゴロンと俯せになり、私と八木橋の位置が逆転する。そして何度も何度もキスをした。八木橋も私に会いたかったんだって分かって嬉しかった。あと2、3日したら板も届く。そしたらもっと八木橋の喜ぶ顔が見れる……。
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