雪の足跡《Berry's cafe版》

 その翌々日だった。昼休みに八木橋が宿舎までお昼ご飯を食べに来て、二人で食後のコーヒーを飲んでるときだった。


「あ、ユキ。そういえば車、契約してきたか?」
「……ううん」


 契約したと嘘をついてもすぐにばれる。私は首を横に振った。


「なんだ、まだオプション決められなかったのか」
「そうじゃなくて。雪道でスリップしそうだから春先まで待とうかなって思って」
「嘘付け。チェーン巻いて浦和から来る奴が雪道が怖い筈があるかよ」
「……」


 ユキしおらしいな、どした?、と八木橋はズルズルとコーヒーを啜る。今カミングアウトしようか、板が届いたときにしようかと迷っていると、八木橋の携帯が鳴った。


「おう、酒井。どした」


 相手は酒井さんのようだった。しばらく相槌を打ち話を聞いていた八木橋が突然、私をギロリと見た。


「……分かった」


 再び相槌を打ち、通話を切った。携帯をポケットにしまい、顎に手をやり、擦る。八木橋の困ったときの癖。無言で、怒ってるのか困ってるのか分からなかった。


「スクール小屋に板、届いたって」
「あ……うん」
「やっぱりユキか」
「うん……」


 八木橋は畳を見つめた。私は説明した。スクール小屋でパンフを見たこと、制作会社に電話で注文したこと、前払いで資金はボーナスから出したこと、車は春先まで延期したこと……。
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