雪の足跡《Berry's cafe版》
指を折り込んだ手が震えてるのが分かる。心臓もバクバクするのが分かる。泣きたくなるのを堪えるために仕方なく八木橋を睨みつけた。
「……そういうことなら遠慮なく」
八木橋は摘んでいたキーをダウンジャケットのポケットに突っ込んだ。私はホッとして室内用のスリッパを出すフリして俯いた。
「ちゃんと食えるんだろうな?」
「あーったり前でしょ!」
いつもの調子に戻る。涙が出るのを誤魔化すために八木橋に背を向けてそそくさと部屋に戻る。冷蔵庫を開けて用意した食材を出した。
「飲むのか、ワイン」
「うん。飲む?」
ミニキッチンの調理台に置きっぱなしのボトルが目に入ったんだと思った。グラスを棚から出して注ごうとしたけど、もう残り僅かだった。
「あ……」
「俺、買ってくるわ」
何か他に必要なモンあるか?、と言いながら八木橋はスニーカーに履き変える。私は、ううん特に、と返事をする。そして八木橋が出ていた間に用意をする。蒸し器もないから鍋に浅く水を張り、蒸し器の変わりにする。フライパンに油を入れて揚げ焼きにする。10分程して八木橋は戻ってきた。手伝うことあるか?、と言ってダウンジャケットを脱ぎ、壁に掛けた。ミニキッチンに来て私の横につく。
昨日まで一緒にペアリフトにくっつくように乗ってた癖に、緊張した。八木橋の太い二の腕、ガッチリした肩が視界の隅をチラチラする。八木橋は買ってきた缶ビールのプルトップにゴツゴツした指を引っ掛けて2本開けると片方を私に差し出す。乾杯をすると八木橋の指が私の指に触れた。八木橋はビールを飲みながらフライパンの上で音を立てていた平目を箸で器用にひっくり返す。そしてコンロの火加減をつ強めた。出来上がった料理を部屋のローテーブルに運ぶ。ワインもチーズも運ぶ。グラスにワインを注いでもう一度乾杯をする。向かい合い座る八木橋を正面から見るのは緊張した。ウェアではなく私服の八木橋にドキドキする。V字にカットされたカットソーから伸びる首。