雪の足跡《Berry's cafe版》
「どした?」
「べ、別に」
「食材整理って明日、帰るのか?」
「うん」
「っつうかさ、なんで一人で? 彼氏とかいねえの?」
「モテないって言いたいんでしょ」
「ああ」
八木橋が肩を震わせて笑う。そして箸を手にするとガツガツと気前よく食べた。私の料理が美味しかったかどうかは分からない。でもその食べっぷりは気持ち良くてそれだけでも私は満足だった。時折八木橋はスキーの話をする。私も一人でここに来た理由を話す。5年間の契約社員に終止符を打ち、正社員になれた自分へのご褒美に板もウェアも新調したこと。板は会社からこっそり予約をしたこと。ゲレンデからの景色が綺麗だとの口コミとコンドミニアムのあるこのスキー場を選んだこと。八木橋は時折茶々を入れながらワインを飲みながら話を聞いてくれた。
料理を全て平らげ、ボトルも空になり、八木橋は両手を合わせてご馳走さまでした、と頭を下げた。なんとなく沈黙する。私は慌てて、いまデザート用意するね、と空いた皿を重ねて持ち、席を立った。食べ終えたら八木橋は部屋を出るのだろうか、そう喪失感に襲われてチョコケーキを出した。
「これ、作ったのか?」
「あ、うん。オーブン無いから炊飯器だけど。生クリームも無くて板チョコとコーヒーのクリームで作った。初めてだから自信ないんだけど」
八木橋は、なんだ俺はモルモットか、と笑いながらケーキにかぶりつく。うん、美味い、と食べる。ユキも食えよ、と私にも取り分けてくれた。でも私は胸がいっぱいで食べられなかった。最後の一品……。
私はたまらなくなり、お皿洗っちゃうね、と席を立った。
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