雪の足跡《Berry's cafe版》

 もう考えるのよそうって思う。八木橋が合コンに参加しようが地元のコを送っていこうが指名されてようが関係ない。携帯に元カノの画像があったって関係ない。でも私は考えてしまうし、いや、考えるどころではないくらい頭の中がカーッとなるのが分かった。


「青山さん、どうしたの?」
「あ、いえ……」


 酒井さんに礼を言い、別れた。ゲレンデに出る。まだ10時前で赤いウェアの姿は無かった。無意識に探してしまう、この4日間で付いてしまった癖。酒井さんは、八木橋は指名が入ってるって言ってた。きっとどこかで引っ掛けた女の子に指名させたんだ。ゲレンデとか昨夜の合コンとか。私を抱いた後に参加した合コン……。怒りを通り越して呆れた。

 私はリフトを乗り継いでコブ斜面に来た。八木橋と初めて滑った斜面。ここなら八木橋も来ないだろうと思った。八木橋が他の女の子を教えてる姿なんて見たくない。

 ニューモデル尽くしの私を馬鹿にしてコブ斜面を選ばせた。あの時には私が自分と同じウェアと板を持ってるのを八木橋は知ってた。きっと物珍しかったんだ。コブを下りる。あの時より楽に滑れた。八木橋がビンディングを調整してくれたから板が軽く感じる。しばらくして赤いウェアのインストラクターと男性スキーヤーがやって来た。上級者だろう、コブの間を縫うように滑り降りていく。八木橋では無かったけど、私は違うコースに移動した。八木橋は今頃誰かを教えてる。あの、一昨日の、お揃いのウェアを来て滑ったときみたいに、ずっと一人だけを見てずっと一人だけに話し掛けて。そして、泣いた私を宥めるように帽子の上から頭を撫でて、板を挟むように近付いてゴーグルの中をのぞき込んで……まるでキスするみたいに。



「ヤギ……」


 チョコの味のするキスを思い出した。


「や……」


 そして誰かが八木橋とキスするのを想像し、ブンブンと頭を振った。


「馬鹿みたい……」


< 49 / 412 >

この作品をシェア

pagetop