雪の足跡《Berry's cafe版》

 遊ばれてもいいって、一晩だけでもいいって、八木橋を部屋に誘った癖に。実際こうして八木橋が他の女の子と遊ぶのを知って動揺してる……。

 お昼になりゲレンデが空いてくる。お腹も空いてくる。麓のレストハウスだとスクール小屋が近くて八木橋にバッタリ会ってしまいそうだから、中腹のロッジレストランにした。混み合っていて家族連れに相席をお願いする。父親が生ビールを口にする。小学生位の男の子が口の回りをミートソースだらけにして母親に怒られる。小さい女の子が私が取ってきたケーキを見て、ワタシも食べたいと泣き始める。私は相席してくれたお礼にケーキを半分取り分けてあげた。親子4人、どこにでもある光景かもしれない。でもどこか暖かくて、自分をその母親に当てはめてみるけど、私の隣には誰もいなくて無い物ねだりだとため息をついた。好きになった男は遊び人で、私を見てはいなくて、こんなに男を見る目がない私は家庭を築くなんてとても無理なことだと思った。

 フォークでパスタを巻いていると視界の隅に赤いウェアがチラチラするのが見えた。その人物に焦点を合わせて私はフォークを回す手を止めた。ズカズカと八木橋がこっちに向かって歩いてくる。


「おう。ここだったか」


 私の向かいの空いた席に手を掛けながらその家族に、すいません、こちらよろしいですか?、と断って椅子を引く。朝から避けていた相手。私の心臓は煩く音を立てて鳴り始める。


「下のレストハウスにいなくてさ。こっちだったんだな」


 赤いウェアを着た八木橋は、あの坂道でスリップした車が何台か立ち往生してるらしいからホントに気をつけて帰れよ、と言った。


「……」


 私はどう返事していいか分からなかった。素直に、うん、と言うのが嫌だったのかもしれない。


「どした?」


 黙っている私を変に思ったのか、八木橋はテーブル越しに私の顔をうかがうようにのぞき込んだ。

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