雪の足跡《Berry's cafe版》
襖一枚隔てたダイニングから母が私を呼ぶ声がする。返事をしてもう一度手を合わせてダイニングに行くと、母がお燗をした徳利をテーブルに置いていた。
「二人分って難しいわね」
苦笑いした母の前には二人で食べ切るには1週間も掛かりそうな量のお節料理。
「父さん、喜んでるよ」
母の手料理が好きだった父。私は父さんに上げてくる、と小皿に数品取り、再び仏壇に行く。その後は母と新年の挨拶をしてお酌をしてお節を摘む。父がいた頃はいつも年末に二人でスキーに行き、母は留守番をしながらお節を仕込んでいた。私が小さい頃は母も一緒に雪山に同行したけど、元来寒いのが苦手な母は私が小学生になってからはほとんどスキーに行くことはなかった。スキーから帰ると伊達巻きを焼く甘い匂いがして台所に走って行き、手も洗わずに摘み食いして母に怒られた。
「スキー、どうだった?」
「あ、うん……」
父が亡くなってから初めて出たスキー。4泊5日の旅行は八木橋に始まって八木橋に終わった。
「……楽しかったよ。景色も良かったし」
「一人で寂しくなかった?」
「うん」
寂しいなんて感じる暇もなかった。往きの車の中では久しぶりの雪道運転に緊張したし、ゲレンデに出てからはワクワクしたし、レストハウスで水を零してからは八木橋に振り回されたし。
徳利を3本空けてホロ酔い気分になり、もう1本、と母に言うと、明日から仕事なんでしょと止められた。荷物の片付けもそこそこに、お風呂に入って2階にある自分の部屋に行く。
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